* 救 世 主 *
「ねぇ、南くん」
「なんだい、千石くん」
「人の気持ちってわからないもんですねぇ」
「そうですねぇ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
はぁ。
南はため息ひとつ。俺のほおを指差して言った。
「どうしたんだ、それ」
「・・・振られて、ぶたれた。」
「・・・(だと思った) なんで」
「・・・笑ったから?」
「俺に聞くなよ。」
いつも笑ってるよね、
千石くんってよくわかんない
別れてください、ごめんね
何でこんなときに笑ってんのよ!
・・・笑えねぇよ。
「あー、もうよくわかんねぇ。なんかね、とってつけたように謝られてムカついてんの」
「俺のほうがよくわかんねぇよ」
「テニスうまい所とか、いつも明るい所がすきとか言ってたのに、・・・いつも笑っててよくわかんないとか言われたって、俺だって、」
ねぇ、人の気持ちなんてわかんないよ、わからないよ。きみがもし、言葉をその口の端にのせたとしても、俺がそれをわかろうとしても、きっと伝わらない、通じあわない。そんな気が、どうしてもするんだよ。
言葉なんてただの記号だよ。
きみの言葉を理解して感じているのは俺で、発してるのは俺のなかに棲む小さなきみという小人だ。
ねぇ、ごめんねぇ。こんなんでさ。
でも、許すだろう。許し合うんだろう?表面の薄っぺらい皮膜をさ。許してよ。
「とりあえず、冷やすか」
そう言って、南は俺の腕をとった。南のその手から伝わる体温があったかくて、俺は、なんだか許されたような気分がして、涙が出そうになって、本当に困った。困りましたよ、南くん。
「これでよし。」
「さんきゅー南」
「お礼になんかオゴレ」
「コンビニまで2ケツしてくれたらいいよ」
「俺がこぐの!?」
「んちゃ。」
ちゃりんちゃりん
南がこぐ自転車に乗って、南の背中によっかかって、俺は思うよ。
俺はちゃんとあの子のことが好きだったんだなぁって思うよ。
俺は臆病者だ。人の気持ちなんてわからない、とあきらめて、一歩踏み出そうとしなかった。勇気がなかった。無駄な気がした。だって怖いし。何が怖いのかわかんないけど、怖いし。そして、人の気持ちっていう中には俺の気持ちも入っていたんだ。俺からの矢印も俺への矢印も確信できないんだ。俺は臆病者だ。
だけど、ちゃんと好きだったよ、きみのことはさ。好きだったよ、それは本当だよ。
「千石ーぅ、おまえはそういう顔してろよ」
あーもう、マジ泣きそう。みなみ、俺は。みなみ、許してくれんの?みなみ、俺はこれでいいの?
「そういう顔ってどんなだよ、エロ顔?」
「あっは!」
「ナニその笑い!ジミナミのくせに〜」
「地味は関係ねぇだろ!」
「もー、俺今ホント、表面張力に感謝してる」
「どーいう脈絡だよ、それ」
「えへ☆・・・南ちゃんだいすき!!」
「どぅわ!んな、くっつくな!転ぶし!」
「メンゴ〜」
「でー?何おごってくれんの?」
「・・・・・・。パピコ半分こしよっか!」
「ちまっ!!」
南はそうやって俺の外側で笑うし、服越しに伝わる体温はあたたかいし。俺は、すげー救われてる。
04.9.7