見上げれば空
中学生活の大半を千石と過ごしてきたけれど、俺はいまだにこいつの言いたいことがわからないときがある。
「いいなぁ・・・南は」
屋上で、唐突に千石が言った。
「は?何が?」
「俺より空に近い」
「・・・・・・」
「ナニ、その反応」
千石のいつものふざけた雰囲気ではなかったので、俺も苦笑して会話につきあってやる。
「8センチしか違わないじゃないか。それに東方のほうが近い」
「うん。いいよなぁ」
「亜久津も俺よりは近いな」
「うん・・・」
千石が、いつもよりも口数が少ないから、俺は馬鹿みたいにべらべらしゃべってる。
「あー、あいつ・・・氷帝の」
「樺地?」
「じゃなくて――、向日!」
「?」
「あいつ、人の何倍も跳ぶじゃん、きっと、人の何倍も空に近い」
「・・・・・・」
俺の言葉に千石はしばらく考えて。
「だけど、それは刹那だよ。向日も、・・・俺も、どんなに跳んだって、結局ここに立ってるんだ」
何が言いたいんだ、お前は。何考えているんだ。
ごろりと、仰向けに横になり顔を覆った千石に心の中で問い掛ける。
「結局、どんなに祈っても、だめなんだよ」
その言葉は、千石に似合わず、声は、細かった。
「せん・・・」
「みなみ」
真剣な声。
「このままじゃだめなんだよ」
こういう時、もしかして、泣いているんじゃないかと思う。しかし、
千石の顔をのぞきこむと、千石は顔を覆っていた腕をどけて笑った。
そうやって、いつだって俺の目の前のきみは笑うんだ。
その笑顔は絶妙で、いつも俺は、安心?するんだ。なんか、隙間が埋まるみたいにさ。
「うん」
俺はただ相槌を打つだけ。
きっとここできみが笑わなかったのなら、俺が「うん」以外を言ったのなら、
壊れる。そんな気がする。
きみも、俺も、
知っている。
コワレル。
ひとはさ、理由もなく何かをすることがあるけれど、気づかないだけで、やっぱり理由はあるんだと俺は思うんだ。きみが泣きそうに笑うのは、理由があるんだろう(俺は鈍いからその理由はわからないけれど)。そんな時、地味に「うん」と言うだけの俺はきみを救えているかな(泣いてしまったほうが楽になるのかも知れないと思っても、俺は「うん」しか言えない)。救いなんて大げさなもんじゃなくて、支えくらいにはなれていたらいいと、身勝手なことを願うよ。
あぁ、何に、誰に祈っているんだ。自分は地に足つけたまま。
「みなみーぃ」
「んー?」
「暑いーー、あおいでーー」
「ばーか、自分でやれ」
見上げると、そこには黒い糸で細かく細かく区切られた、青い、夏の空があるだけだった。
千石が、俺のほうが近いと言ったその空は、やはり、遠かった。
きっと、キヨは南の鈍感さに救われてると思うんだ。