えろ注意!
すみませぇん。





9月の終わり、平日、夕方。俺は1時間半かけて今、山吹の校門前にいる。躊躇なく門をくぐる。
夏の大会が終わって、3年は引退して。2年の代になって初めての大会、新人戦で俺たち立海は優勝した。優勝を決めたのはもちろんS1の俺で、その瞬間になんだかすごく千石さんに会いたくなったんだ。泣きそうなぐらいにすごく。
「よくできました。はなまる◎なでなで」先生が小学校1年生の子にするみたいに、千石さんに笑ってほしかった。
(てゆか、千石さんがその場にいたら、きっとそんな風にほめてくれる)
で、思い立ったら吉日って言うじゃん。だから来ました。大会直後で、部活も休みだし。俺はわがままな子供だから遠慮はしない。
ただ、これが俺のわがままだっていうことは自覚しておこう。だから会えなくてもがっかりし過ぎないようにしよう。
そもそも千石さんはすでに校内にいないかもしれない。俺は千石さんが何組かも知らない。

とりあえず、テニスコートにいってみた。テニス部は普通に練習していて(山吹は新人戦、関東大会どまりだった)、俺に気づいた室町がちょっと嫌そうな顔をした。
室町は千石さんの教室ってどこー?っていう、俺の唐突な質問に嫌な顔のまんま答えてくれて、どうやって行けばいいかも教えてくれて、立海の制服じゃ目立つからってジャージまで貸してくれた。室町、基本いいやつだよね。
ジャージを羽織って千石さんの教室に急ぐ。その間に俺がここにいる正当な理由を考える(言い訳ともいう)。
どうして俺は千石さんに会いにきたのか?

どうして俺は千石さんに会いにきたのか、
答えは簡単。「新人戦全国制覇の報告」だ。
ならばなぜ、電話やメールじゃなく、直接会いにきたのか?
ごめん会いにくる以外思いつかなかった。「千石さんに会いたかった、そして直接ほめてほしかった」。
(そうだよ、俺千石さんのケータイ知ってんだから、約束でも何でもすればよかったのに。)
そもそもなぜ、千石さんなのか?
・・・。「好きだから」だ。実は俺は千石さんに憧れているんだ。
なぜ好きなのか?
テニスうまいし、ノリいいし?まあそんなやつはいっぱいいるんだけど。
思い出す千石さんはいつも笑顔だ。千石さんは実は、すげー努力の人なのにそれを見せないで、不適に笑う。強い人だと思う。
かといって、別に千石さんみたくなりたい訳じゃない。千石さんは千石さんで俺は俺だ。
ただ、千石さんの芯に触れたいと思う。心を通わせたいっていうのかな、認め合いたいっていうのかな、そういうニュアンス。
千石さんの不適に笑う裏側を見てみたい。

ーーーって、好きに理由付けなんてする必要なくね?

うだうだ考えているうちに千石さんの教室の前までたどり着いた。

ガラリ、扉を開ける。
果たして、そこに千石さんはいなかった。というか、誰もいなかった。はぁーっと大きく息を吐いて、一番近くの席に座る。そうだよね、受験生がだらだら残ってるわけないよね。自分に言い聞かせながら、ケータイでぽちぽち千石さんの名前を探す。

「電話、しようかな、」

でも俺の指は通話ボタンには伸びない。なんだか気がそれてしまった。思い通りに行かなくて拗ねてるガキみたいに、じくじくした気持ちだ。がっかりしないなんて無理。

「はぁ・・・」

ため息。

ーーーー

人が来る気配がしてドキッとする。ガラリ、この教室の扉が開く。

「・・・・はれ?その頭は・・・」

その声は!がばっと突っ伏していた顔を上げる。

「あ、やっぱり切原くん」

千石さんと目が合った。千石さんはにこっとした。
思わず、ラッキー↑と心の中でガッツポーズした。






「どうしたの?俺に用だった?そのジャージどったの?」
千石さんが聞いているのに、さっきぐだぐだ考えてたことなんて全部どこかへ飛んでいってしまった。

「えっと・・・ジャージは室町に借りた・・・」
「?あ、さっき数研に行ったら先生たちがお茶してて、これもらったから切原君にどっちかあげるね。」

差し出されたのは、有名高級チョコレートと、有名高級フルーツ店のマシュマロ。

「え、わ。いいんすか?じゃ俺、ゴディバー」

そのチョコは丸くてつやつやしていて、口に入れるとほろ苦く、甘く溶けてとってもおいしかった。千石さんは、その様子をニコニコしながら見ている。

「千石さん、それ食べないの?」

千石さんは、ニコニコしたままで言ったんだ。

「うん。これは南にあげるの」

その声は、ころころ転がるような声で。それで。

「千石さんって・・・
「俺が何だって?」

千石さんが開けっ放しだった教室の扉、いつの間にか南さんがいた。

「みなみぃー」

千石さんは南さんのもとにパタパタ駆け寄って、これあげるね、とか、明日の補習がどうたらとか、ニコニコ話しだす。・・・なんていうか。犬っぽい?「ご主人様に喜んでもらいたいの!俺いい子でしょ?誉めて誉めて!」みたいな。千切れんばかりに振りまくる尻尾が見える!
背のせいか、千石さんはちょい上目遣いでかわいい。てか、すきすきオーラ全開☆というか。えー俺、蚊帳の外?

「あ、でね。切原くんが遊びにきたから、今日切原くんと帰るね」

俺のじとっとした視線に気づいたのか?、やっと俺の存在を示す。南さんは、あーやっぱその髪は立海の切原くんだよなーとか言って、俺を一瞥したあと千石さんに何か耳打ちして、千石さんは、フフッって笑う。俺、ちょっと面白くないです。

「じゃ、お先ー。千石明日遅刻すんなよ。切原くんも気をつけて帰ってね」

うん、いい人だ。でも帰り間際に、

「あ、切原君。新人戦、全国制覇おめでとう」

言ってしまった。





『・・・・』
「あーそうか。新人戦って立海が優勝したんだっけ」
「うん。・・・今日、それの報告に来たんだ」
「そっか・・・わざわざ来てくれてありがとう」
「うん」

千石さんは俺の前の席に座って、俺と視線を合わせると、いきなり俺の頭をぐしゃぐしゃーって乱暴に撫で回す。痛っ、痛いですよ?

「何すんだよー」
「おめでとう。よくがんばったね!」

室町君悔しいんだろうなーとか言いながら今度はぽむぽむ軽くたたく。
その手の重さとあったかさがすごく心地いい。千石さんの反応が想像通りでちょっとおかしくて、どうしよう。俺、めちゃくちゃうれしいです。






「うん、ありがとう。うん、あの・・・」

うれしい。うれしいんだが・・・!
ぽむぽむぽむぽむぽむぽむぽむぽむ

「っもういいから!」

俺の頭をぽむぽむし続けた千石さんの手を払いのける。千石さんはふひひっとかいって、くそーかわいいな。

「ねぇ、切原君。用はそれだけ?」
「え、うん」
「あー・・・そうですか?」
「え、だめ?」
「や。ちょっとびっくりして。本当にそれだけのために来たんだ。」
「久しぶりに千石さんの顔でも見に行くかーつってね」

会いたかったっていうのはちょっと恥ずかしいです。

「はは、じゃあ、ほかに用ないんなら、遊ぼうよ。どっかいく?ごはん食べる?あっテニスする?」
「するっ!テニスする!」

千石さんとならなんだってうれしいんだけど、テニス大好き人間としては、このお誘いほどうれしいものはない。もちろん即答だ。
千石さんが苦笑いしてる。きっと俺の目が変わったんだろう。


*****


とりあえず、コートを貸してもらうお願いと、室町にジャージを返しにテニスコートに来た。
けれど、部員は誰もいなくて(全員でランニングにいったっぽい)、コートも鍵がかかってて入れない状態だった。

「ジャージ、部室においていこうか。室町君には俺がメールしとくよ。俺のラケット部室にあるから、それもって公園のテニスコートに行こうか」

山吹の部室は鍵が暗証番号式で、部員ならいつでも誰でも入れるらしい。うらやましい。
うちは顧問に鍵を借りないとだめだから、なかなか自由に入り浸れないんだ。(仁王先輩とか合鍵作ってたけど)

「ここ、室町君のロッカーね。って、あー!」
「どうかしたんですか?」

言われたロッカーにジャージをかけながら千石さんのほうを見ると、千石さんはなにやら自分のじゃないロッカーをあさっていた。

「くそー南のやつ、もうロッカー片付けてる」

そう、三年は引退して、ロッカーなんかも私物を片付けなきゃいけない。
片付けられたら本当に先輩たちはOBになってしまって、会う機会も減ってしまって、それは結構寂しいことなんだけど。

「南さんて、けっこードライ?」
「へっ?いや全然。ウェットだよ?ウェッティだよ。なんつーかけじめみたいな感じかなあ。あいつそういうこと気にしそうだし。俺も片さなきゃ」
「そういや、さっき南さんになんか耳打ちされてたよね?なんだったの?」
「あー、いやあ、切原君て問題児だからさあ。はは。気をつけろって」
「なんだよそれー」
「うそうそ。っていうか、俺と切原君てペアが心配だったっぽい。問題起こすなよっつって。ぜぇんぜん大丈夫だよねえ?」
「はは。なにそれ」
「南はさ、心配性で苦労性なんだよねぇ」

南さんのこと話してる千石さんはどうしてもかわいい。ああ、さっき、教室で言いかけたことを思い出してしまった。

「千石さんって、南さんのことすげー好きだよね」
「へっ」

唐突過ぎたかな。千石さんは目をぱちくりさせている。

「え、えーと。うん。?」
全面的な肯定。何でそんなこと聞くの?という目。

「南はいいやつなんだ。地味に優しくて地味に頭よくて地味にかっこいいんだ。
なんていうかなー、・・・ずっと・・・南にしかってもらいたいって言うか・・・俺はずっと南の”しようがないやつ”でいたい。」

千石さんは宙を見てる。きっと南さんを見てる。

「・・・なんてね!」

そう言ってこっちを向いた千石さんと目があった。バチッと空気が鳴った気がした。

「千石さん、キスしていい?」

一瞬の間。

「いいよー?」

間延びした”よ”、が終わるのをまてずに、俺は千石さんをロッカーに押し付けて、奪うようにキスをした。空っぽのロッカーは意外に派手な音をたてて警鐘を鳴らすけど、気にしない。千石さん、痛かった?ごめん。

すぐに舌を割込ませて絡めあう。
あーやばい。やわらかい。熱い。気持ちいい。
どちらのともわからない荒い呼吸と心臓の音とで頭ががんがんする。ときどき鼻に抜ける千石さんの声がたまらない。
どこかで野球部の声が聞こえる。暑い。
千石さんの首に一筋汗が伝っていく。その汗を追って、唇を這わせていく。詰襟の内側、薄い皮膚を吸い上げたる。千石さんのにおいがする。吸い上げたところを、なめたり、軽く歯を立てたり。ときおり、びくっとする千石さんがかわいい。
うなじからのど元へ、どくんどくん、この下に千石さんの命が流れている。

何でこんなことになってんだっけ?俺、千石さんとこういうことしたかったっけ?俺の好きは、こういう好きなんだっけ?
熱い。あつ、い
きっとこの暑さのせいだ。ああ、夏は終わったというのに。






不意に体を押し戻された。

「・・・肩が痛い」
「あ、ごめん」
『・・・』

ヒジョーに気まずい。何を言えばいいわからずに、これからテニスなんて雰囲気じゃないな、残念だなぁ・・・なんて見当違いのことを俺は考えている。
千石さんは、唇とか耳とか首筋とかをぬぐっている。そのあと何を言う?

「それじゃ、公園いこっか!」

千石さんは何もなかったかのように、カラッと笑った。

「う、うん・・・」

俺は多分、何もなかったかのようには答えられてなかった。




部室を出て、千石さんが自転車に乗せてくれて2ケツで公園へ向かった。どうしよう、とか、ごめん、とかあるけど、それでもテニスは楽しみなのだった。



*****


「こっれっでっ、――――――終わり!」

パカン!


俺の撃った球が逆サイドに決まった。俺の勝ち!
千石さんはその場でばったりと倒れる。俺は、飛び越えていったボールを捕まえてから、千石さんに寄りかかるように座った。

「・・・悔しい。」
「ハハ・・・」
「くーやーしーいー」

ばたばた、駄々っ子のように暴れる千石さんがかわいい。年上なのにかわいいなんて思っちゃう。

「もいっかいする?」

覗き込む、目がNoを言う。疲労で潤んだ目、上気した頬に俺の心臓は音を立てる。触れている腕と腕が熱い。
千石さんの呼吸とか体温とか鼓動とか、命みたいなものが伝わってきている気がするんだ。
キス。もう一回したい。

「ねえ、誰もいないところいく?」

千石さんの言葉で俺は死ぬ。



*****




結局、2人きりになれるところなんかなくて。でも切羽詰ってトイレの個室にイン。鍵を閉めて、すぐに千石さんを壁に縫い付ける。まるでさっきの続きだ。
食い合うようにキスをする。深く深く。呼吸も熱も混ぜ合わせる。制服のすそから手を入れて、汗ばんだ肌を確かめる。
たまらなくなって腰を押し付けると、千石さんのも硬くなっている。
同じだ、同じ気持ちだ。

「もうきつい?」

千石さんのいやらしい手が俺のパンツのゴムを這う。
お互いベルトをはずし合って、脱がせあって、触りあって、擦り合う。くちゅくちゅ、音がこの空間に満ちて、まるで別世界だ。
時々千石さんの視線を感じて、恥ずかしすぎて、瞳をなめてそれを封じる。
もう、本当にどうにかなってしまいそうだ。

「かわいい・・・」

おでこにやわらかい感触。キスされたのだ。本当に愛しい、みたいな仕草で。

「あ、やば・・・」











俺が先に達して、ちょっと送れて千石さんも達して。
で、今。


ジャー・・・


二人並んで手を洗っている。ちょっと間抜けだ。

「・・・大丈夫?」

それは、勢いでこんなことしちゃったーとか、そもそも男と、とか、俺ととか。気持ち的に。あと無茶したつもりはないけど、力はいちゃったから、もしかどっか痛くしてない?とかそういう色々ひっくるめての。
というか何を言えばいいのかわからない俺の発声。

「疲れたね。」

ですねー。

「タオル使う?」
「あ、サンキュ」

手を拭いて返す。目が合って、一瞬だけ千石さんが目だけで笑う。俺はもう、どきどきするしかない。

「切原くん、もう帰る?」
「え、あー7時・・・帰んないと姉ちゃんに叱られるなあ。」
「駅まで送るよん☆」

再びチャリに2ケツして街を走る。
日が入ったばかりの紫の空。街灯がつき始めている。
千石さんの背中は何も言わない。何考えてんの?
ぎゅっと力を込めてしがみつく。ちょっとふらついて、また走る。
伝わってくる体温に、うとうと、取り留めのないことばかりよぎる。

千石さんと関係をずっと保てたらいいのに。恋人、友達・・・?違うだろ。
先輩後輩はある意味そうだけど、学校違うしなあ。
俺と千石さんの関係は希薄だ。
テニス仲間?そらそうだけど。

・・・千石さんが兄ちゃんだったらいいのに・・・

ピコーン!

頭の中で効果音がなった!それだ!?
姉ちゃんと千石さんが結婚すればいいのだ!

「千石さーん、彼女いる?」
「はー?いやーかわいい子がいっぱいいて一人に絞れないよー」
「年上どうですかー?」
「えーいきなりなに。もちろん大歓迎だけどお」
「うちの姉ちゃん、結構かわいいよー?高2!天パだけど!」
「ははは、何いってんだよー」
「性格きつめだけどーしっかりしてるし!マジでいい嫁になるって!」
「・・・・・・。こんな遅くなって、しっかり者のお姉さんに叱られる?」
「えっ?」

そういえば。今何時だろう。すっかり暗くなって、星が輝いている。駅ってこんなに遠かったっけ?

「あ、あれ?ここどこー?」
「くすくす、切原くん全然気づかないんだもん」
「えーどういうことだよー」

背中の温度が、通り抜ける風が、心地よすぎたみたいだ。

「さすがにね、そろそろ帰んなきゃだよね。」
「千石さん?」
「切原くん乗せて走ってるの、なんか楽しくてさー、3駅先まで来ちゃった!」

からから笑う千石さん、最上級にかわいい。俺ともうちょっと一緒にいたかったってこと?
・・・姉ちゃんとくっつける、その路線でいくしかないのかな。

「・・・また会いにくるね?」
「うん。」

ぎゅ、腰に回した手に力を込める。
笑って、またね、って別れられそうだ。
その「また」がいつになるのか、本当に在るのか、今はわからないけれど。
俺は千石さんの特別を見たい。千石さんの中に存在したい。
そういう関係がどういう言葉で表せるのか、俺は知らない。
千石さんとの関係を保つ、その方法はまだまだ模索中だ。