さみしい夢を見た。
よくは覚えてないのだけれど、とてもさみしい夢だった。
人がいて、俺がいて、でも俺と他のすべてが断絶しているような。
みんな、笑うのに、言葉を交わすのに、通り過ぎていってしまう。
俺だけひとり、止まっているような。きみが俺を置いて、行ってしまうような。
***嘘と嫌い***
朝目が覚めて、寒い、と思った。
泣いている自分に驚いた。
もう陽が高い。空は晴れていた。
「さむ」
乾燥した空気でのどがからからだ。
「おはよー」
リビングには誰もいなくて、そういえば父さんと母さんは朝からじーちゃん家に行くんだった、と思い出す。姉ちゃんは部活だ。
とりあえずペットボトルの水を持ってテレビの前へ移動した。
ピコ、ピコ、
「・・・いいのやってねぇ。」
ごはん・・・食べたくないな。勉強・・・したくないな。
ああ、気分が上がらない。
「南、暇かな。」
つぶやいて、暇なわけないな、と思う。受験生なのだ。南の迷惑そうな顔を思い浮かべて、ちょっと笑えた。
で。俺は南のいるところへ行く。
即効で着替えて、ケータイと小銭だけ持って、お気に入りのスニーカーをはいて外に出た。
***
足は南の家に向かう。思考は自分の内に向かう。ふわふわと浮遊しながら落ちていく。
朝の夢を思う。
あの気持ちは、一言で言えば孤独だ。みんな流れていく、そのスピードが自分だけ非常にゆっくりで、遠くなる背を眺めている。世界がみんな俺に背を向けている。
その感覚を今もトレースできる。
本来、俺はひとりが好きなのだ。だって自由だ。安全だ。行動も思考も邪魔されない。
でもひとりは孤独だ。孤独はさみしい。
今俺は、どうしようもなくさみしい気持ちになっている。
南に会いたい。でも会いたくない。本当にひとりになれたらいいのに。
ひとりに、なれたらいいのに。と、本気で思いながらも、小さな子どものように感情のまま泣きたい、そんで南に慰められたい。
ピンポーン
「みーなみくーん、あーそびーましょー!!」
ドタドタ。階段を降りてくる音がする。これで南じゃあなかったらはずいな。
「みーなみくーん!!」
ガチャリ
「・・・お前は小学生か」
南の思った通りの迷惑顔に俺は反射的に笑顔を作った。
「遊びましょ☆てか、寒いからとりあえず入れて。」
「まっ。いーけど。」
ありがとう。南。
***
南の部屋に上がって、ベッドを占領して思う存分ゴロゴロ〜。
南はちょっと区切り悪い、とか言って机に向かって勉強してるし、俺はジャンプでも読むことにする。
俺がブリーチとワンピといぬまるくんと・・・とにかく大半を読み終わるころ、まだ南は俺に背を向けたまま。
つまんないですよ、南くん。てゆか、さみしいですよ。
「南〜ぃ」
「何?」
「やっぱり俺帰るかな〜」
南といてさみしいより、ひとりでさみしい方がマシだ、なんて心で呟いてみる。本当はどっち?
南はえー?何しに来たんだよ、とか言いながらやっぱり机に向かったまま。南はひどい。
出るとき、送るよ、と南はパーカーのポケットに手を突っ込みつつ追ってきてきてくれた。
「寒いなー」
「うん、寒い。」
南はひどい!鈍感だ!俺は気付いてほしい。
さみしくてさみしくて仕様がないこと、俺の目に冷たい風のせいでなく、涙が浮いていること。
でも南は気付かないし、万が一気付いても俺は何でもないよ、と笑うだろう。
正直、助かっているとも思う。だってもし泣いてしまったら、次、目があったときなんて言えばいいの?
人間の感情って複雑だね。欲しくて欲しくない。
誰かの心なんて知らない。だって自分の本当すらわからない。
南のパーカーのポケットに手を入れる。
「冷てー。」
でも俺の手も自分の手も抜こうとはしないよね。
ポケットの中で、ぎゅっと手を繋ぐ。じんわりと熱が広がる。
ホットミルクを飲んだときみたいに。
自然に、頬が緩んだ。吐いた息が白かった。
テニス・・・したいな。
「部活したいな〜。」
「!だよねぇー。俺も思ってた!」
「今度の模試終わったら、行こうぜ〜」
「うん。行く行く!」
きみの体温と小さな同意、たったそれだけで、こんなにも気持ちが軽くなる。
人間の感情って単純だね。
きみが好き、本当だよ。